沖縄美ら海水族館では、衰弱した動物のレスキューや野生復帰、飼育下で繁殖した希少種の放流(ヘッドスターティング)など、自然保護に向けた取り組みを行っています。
2月4日、海洋博公園近くの砂浜でアオウミガメが産卵しました。通常、沖縄県内でのアオウミガメの産卵期は6~8月ですが、産卵があった2月初旬は夜間の気温が15℃を下回ることが多く、このままでは卵内の胚はすべて死亡してしまいます。そこで、全ての卵を水族館に持ち帰って孵卵器に収容し、人工孵化を試みました。 保護からおよそ2か月が経過した4月3日に孵化が始まり、合計20匹の仔ガメが誕生しました。すぐに海へ放流したいところですが、4月の海の水温は21.5℃で仔ガメにとっては冷たすぎます。以上の理由から、実際のアオウミガメの孵化の時期である夏場に、産卵のあった砂浜近くから放流する予定です。
卵を収容した孵卵器
孵卵器内の卵
孵化した幼体
衰弱した状態で浜辺に漂着
水族館に保護収容し、CT検査や生理食塩水の注射、欠損していた後肢の消毒等を行いましたが、残念ながら、翌日に死んでしまいました。
解剖を行ったところ、お腹の中から、大量の軽石やプラスチックゴミが見つかりました。軽石が直接的な死因になったかどうかは分かりません。少なくとも、そういった所見はみあたりませんでした。しかし、腸が細い仔ガメでは、軽石が腸で詰まったり、腸閉塞などの原因になる可能性もあります。
軽石が海を浮遊するかぎり、仔ガメが誤って食べてしまう可能性があります。水族館では、引き続き、軽石やゴミで苦しむウミガメを保護や治療できる態勢を強化していきます。
CT画像
体内から出てきた軽石等
ウミガメは砂浜に産卵し、約2か月後に孵化します。砂から出てきた仔ガメは、すぐに海に向かい、沖合に向かって約1日間泳ぎつづけます。その後、泳ぎを止めて、浮遊生活を行うと考えられています。
今回のウミガメは沖合で浮遊生活中に、誤って軽石やプラスチックゴミを食べてしまった可能性があります。
衰弱した状態でビーチに漂着
左前肢が欠損していましたが、この傷はすでに完治していました。CT撮影や血液検査の結果、体内に多量のガスが確認されたことから、これが遊泳不良や漂着の原因であることがわかりました。
保護当初、体内のガスによって体が浮き、遊泳がうまくできないものの、保護した翌朝にはエサを食べる意欲が確認され、すぐに食べ始めました。その後、徐々にガスが排出されはじめ遊泳状態が改善していきました。
2021年6月18日に、正常な遊泳ができることを確認し、海洋博公園内の砂浜より放流を行いました。
保護当時の様子
体内のガスで体の後ろ側が浮いている状態
海洋博公園近くの砂浜にて、前日の夜に産卵したとみられるウミガメの産卵巣が発見されました。この砂浜では今秋に送水管の工事が予定されており、ウミガメの産卵・ふ化の時期とは工期が重ならないものの、工事の事前調査等による影響が懸念されることから、地元でウミガメの保護活動をされている方と一緒に卵を移設することとなりました。
砂浜に残された足あとから産卵巣の位置を推測し、卵を取り出した後、同じ砂浜の工事区域外にウミガメが掘ったものと同じ深さの穴を作り、卵を埋め直しました。7-8月には仔ガメがふ化し、脱出する予定です。
掘り起こした卵と産卵巣
保護当時の状態
砂浜にて産卵後、岩礁に迷入し身動きが取れなくなった
水族館へ収容後、血液検査および淡水浴による体表の寄生虫除去を行いました。
潮が引いた岩礁を歩いたことによる腹甲の擦り傷はあったものの、血液検査の値に異常は見られませんでした。また、エコー診断の結果、卵殻卵形成の兆候が見られたことから比較的早めの放流が必要と判断し、保護からおよそ1週間経過した5月14日、再度の血液検査にて健康状態を確認した後、保護した場所近くの砂浜より放流を行いました。
エコー診断画像
網の中での様子
2021年3月4日早朝、シワハイルカ8頭が定置網に誤って入ってしまいました。漁師の方々と連携し、溺れてしまわないように飼育員が補助しながら、イルカたちを網の外へ誘導し、全頭無事に放流することができました。
網の外へ誘導している様子
放流後泳いでいく様子
放流後の生存状態や移動情報を調査するため1頭の背ビレに衛星標識タグを装着したところ*、放流後からタグが脱落するまでの数日間に亘り、周辺海域を移動する様子を確認することができました。
*衛星標識タグの装着は、獣医師の指導の下、沖縄県の許可を得て実施しています。
保護当時の状態
衰弱した状態でビーチに漂着
血液検査とCT撮影の結果、消化管内にガスが溜まっていることがわかり、それが原因でうまく遊泳できず、砂浜に漂着したと考えられました。糞便からは寄生虫の卵も確認され、加えて細菌感染症の疑いもあったため、ビタミン剤の点滴に加え、駆虫剤や抗生剤を投与しました。
治療の様子
治療開始から数日で餌を食べるまでに回復しました。また、血液値や消化管内のガスも改善したことから、保護からおよそ4か月半経過した2020年6月18日に海洋博公園内の砂浜より放流を行いました。
保護当時の状態
岸の近くを漂流中、地元住民によって保護
他の生物に咬まれたのか、右前肢および左後肢の一部が欠損していました。体表に大量のウミエラビル(吸血性の寄生虫)が寄生、血液検査の結果、重度の脱水と貧血症状が確認されました。淡水浴によって寄生虫を取り除くとともに、脱水などの改善のため点滴を毎日実施しました。
寄生虫除去の様子
ウミエラビル(寄生虫)
治療開始から6日で餌を食べるまでに回復、寄生虫も取り除かれ、血液値にも改善が見られたため、2020年6月11日に海洋博公園内の砂浜より放流を行いました。